消防危第145号

平成9年12月26日

各都道府県消防主管部長 殿

消防庁危険物規制課長

 

危険物の安全管理に係る指導等について(通知)

 

危険物の安全管理に係る指導等については、日頃から御努力願っているところである。先般、平成9年上半期(11日から630日まで)の危険物に係る事故発生状況を示したところであるが、事故の発生件数は昨年同期とほぼ同数となっており、依然として高い水準にある。これら事故の原因については、危険物施設において本来なされなければならない安全管理が不十分であった等の人的要因が事故全体の約5割を占めており、危険物施設の安全管理の徹底が求められるところである。

さらに、今般、総務庁から「危険物の保安に関する行政監察結果に基づく勧告」(別添)がなされたが、当該勧告においても事業者に対する指導の徹底等の必要性が指摘されたところである。

貴職におかれては、危険物の安全管理に係る指導等について、下記事項に留意して、なお一層の安全管理の徹底が図られるよう指導されたい。

また、貴管下市町村に対してもこの旨示達され、よろしく御指導願いたい。

 

 

1 事業者に対する安全管理に係る指導の徹底

危険物の適切な貯蔵・取扱い並びに危険物施設の適切な維持管理を図る観点から、以下の事項に関し、事業者に対する指導を徹底すること。

(1) 予防規程の作成及び遵守

(2) 危険物保安監督者の選任及び業務遂行

(3) 保安講習の受講

(4) 定期点検の実施

 

2 指導に係る留意事項

1の指導に当たっては、以下の点に留意しつつ、関係法令・通知に沿って適切な措置を行うこと。

(1) 立入検査の実施に当たっては、過去の立入検査の際の指摘状況等を勘案し、重点的・効率的な実施に努めること。

(2) 立入検査の際には、危険物施設が位置、構造及び設備の技術上の基準に適合するよう維持管理されていることを確認するとともに、予防規程の内容に即して業務、保安教育、防災訓練等が行われていることを確認すること。

(3) 消防法令違反が認められる場合には、当該違反に起因する災害の発生を防止するため、当該違反の内容、当該違反により火災等が発生する危険性の程度等に応じた適切な指導を行い、又は警告を発するとともに、必要に応じ、措置命令をすること。

(4) 立入検査の際に改善すべき旨の指摘を行った事項に関しては、例えば、改善報告書を徴収する等、その後の事業者の改善状況を確認すること。

(5) 移動タンク貯蔵所の立入検査の際に貯蔵取扱基準遵守命令をした場合には、当該移動タンク貯蔵所の許可をした市町村長等に対し、所要事項を通知すること。

(6) 消防法令違反に対しては、危険物取扱者免状の返納命令に関する運用基準の厳正な運用により適正に処理すること。

 

(参考)主な関係通知等

「予防規程の認可について」(昭和40年11月2日付自消丙予発第178)

「製造所等の定期点検に関する指導指針の整備について」(平成3年5月29日付け消防危第48)

「危険物施設立入検査マニュアルについて」(平成3年5月23日付け消防危第43)

「危険物施設立入検査マニュアル(移送取扱所等)について」(平成4年2月5日付け消防危第9)

「移動タンク貯蔵所に係る消防法の一部改正等に伴う立入検査及び命令の運用について」(昭和61年12月26日付け消防危第120)

「危険物取扱者免状の返納命令に関する運用基準の策定について」(平成3年12月19日付け消防危第119)

「全国消防長会危険物輸送車両の立入検査実施要綱」(昭和62921日付け全消発第252号、一部改正 平成3918日付け全消発第174)

 

別添

 

 

2 危険物の保安に関する行政監察結果に基づく勧告(関係部分抜粋)

危険物施設の保安に係る各種の規制は、国民の生命・財産を守る上で重要なものであるが、本来の政策目的に沿った必要最小限のものとなるよう、常に規制の見直しを図っていくことが必要である。しかしながら、必要な規制緩和を進める一方で、危険物施設における火災等の発生原因をみると、従業員の点検不十分、誤操作等人的要因に起因するものが約6割を占めていることから、事業者に対する保安管理に関する指導を徹底し、事業者の保安意識を高め、危険物施設における自主保安体制の確立を図ることが極めて重要である。

(1) 事業者における予防規程の励行、危険物保安監督者の選任等の徹底

自主保安体制の整備を図るために関係法令上事業者に義務付けられている主な事項は、以下のとおりである。

① 消防法第14条の2第1項及び危険物令第37条に基づき、一定数量以上の危険物を貯蔵し、又は取り扱う危険物施設の事業者は予防規程を作成しなければならず、その事業者及び従業者は、同条第4項に基づき予防規程を守らなければならない。また、予防規程を作成せずに危険物を貯蔵し又は取り扱った者は、同法第42条第1項第6号に基づき6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処することとされている。

② 事業者は、消防法第13条第1項に基づき、一定の危険物取扱者(危険物取扱者試験に合格し都道府県知事から危険物取扱者免状の交付を受けている者)のうちから危険物保安監督者を定め、危険物の取扱作業に関して保安の監督をさせなければならないこととされている。なお、事業者は、危険物保安監督者を定めたときは、同法13条第2項に基づき、遅滞なくその旨を市町村長等に届け出なければならず、これを解任したときも同様である。

また、危険物保安監督者に選任された者は、危険物規則第48条に基づき、危険物取扱作業が消防法第10条第3項の技術上の基準及び予防規程等の保安に関する規定に適合するよう作業者に必要な指示を与えるなど危険物の取扱作業に必要な監督業務を行うこととされている。

③ 危険物施設において危険物の取扱作業に従事する危険物取扱者は、危険物施設等に係る新たな知識・技術を適時に修得するため、消防法第13条の23に基づき、都道府県知事が行う危険物の取扱作業の保安に関する講習(以下「保安講習」という。)を受けなければならないこととされている。危険物取扱者は、危険物規則第58条の14に基づき、危険物取扱作業に従事することとなった日から1年以内に保安講習を受講することとされており、継続して危険物取扱作業に従事している場合は、前回の保安講習後3年以内ごとに保安講習を受講しなければならないこととされている。

④ 事業者は、消防法第12条第1項に基づき、危険物施設の位置、構造及び設備が技術水準に適合するように維持しなければならないこととされており、危険物令で定める一定数量以上の危険物を貯蔵し、又は取り扱う危険物施設の事業者は、同法第14条の3の2及び危険物規則第62条の4に基づき、危険物施設を年1回以上定期に点検(以下「定期自主点検」という。)し、その点検記録を作成し、これを3年間保存しなければならないこととされている。

消防庁は、定期自主点検について、点検項目、点検内容及び点検方法の統一を図るため、「製造所等の定期点検に関する指導指針の整備について」(平成3529日付け消防危第48号消防庁危険物規制課長通知)により、危険物施設別の点検表(以下「点検マニュアル」という。)を示し、事業者に点検マニュアルによる定期自主点検を実施させるよう市町村長等を指導している。

今回、250事業者における予防規程の励行状況、危険物保安監督者の選任状況、定期自主点検の実施状況等を調査した結果、次のような状況がみられた。

① 予防規程の作成義務のある190事業者における予防規程の作成状況等をみると、127 事業者(66.8)において、i)予防規程を作成していないもの(8事業者)ii)予防規程に定めなければならない事項が記載されていないなど予防規程の内容が不十分なもの(108事業者)iii)予防規程の変更認可を申請していないもの(50事業者)がみられる。中には、i)予防規程の作成が必要な危険物施設を昭和61年から設置しているにもかかわらず、予防規程を作成していない事業者、ii)昭和60年ごろ、保安組織を変更したが、予防規程は従前のままとなっている事業者がみられる。

また、予防規程を作成している182事業者について、予防規程に定められている保安教育や防災訓練の実施状況をみると、137事業者(75.3)において、i)保安教育を予防規程どおり実施していないもの(112事業者)ii)防災訓練を予防規程どおり実施していないもの(131事業者)がみられる。中には、i)予防規程では、保安教育を年2回実施することとしているにもかかわらず、業務の都合上時間がとれない、重要と思っていないとして、保安教育を実施していない事業者、ii)予防規程では、部分訓練を3か月に1回以上、総合訓練を毎年1回以上実施することとされているにもかかわらず、3交替制勤務を行っているため全従業員を集めての訓練は困難であるとして防災訓練を実施していない事業者がみられる。

② 危険物保安監督者の選任義務のある203事業者における危険物保安監督者の選任状況をみると、24事業者(11.8)において、i)危険物保安監督者を選任していないもの(1事業者)ii)危険物保安監督者が監督業務を行う営業所から離れた製油所に勤務していることから、当該営業所には、週1回程度しか立ち寄ることができないものとなっているなど、危険物保安監督者の監督業務が十分に遂行できないもの(3事業者)iii)24時まで営業を行っているにもかかわらず、危険物保安監督者及び職務代行者の勤務時間が20時までとされていることなどから、危険物保安監督者及び職務代行者が相当の間不在となるもの(3事業者)などがみられる。

また、危険物保安監督者の監督業務の遂行状況をみると、202事業者のうち、138事業者(68.3)の危険物施設の維持管理に法令違反の事項がみられ、中には、ポンプから危険物であるメタノールが漏れているほか、保有空地内(延焼防止及び消火活動のため危険物施設の周囲に設けられる空地)にメタノール入りのドラム缶等が放置されている事業者(製造所)がみられるなど、危険物施設における危険物保安監督者の責務が十分果たされていない状況がみられる。

③ 調査した140事業者において保安講習を受講する必要がある危険物取扱者513人を抽出し、その受講状況を調査した結果、28事業者の53(10.3)が受講しておらず、中には、i)同一の危険物施設における4人の危険物取扱者のうち3人は、危険物取扱者免状取得後一度も受講したことがなく、また、残る1人も前回の受講から約6年間にわたり受講していないもの、ii)危険物保安監督者が受講していればよいと事業者が誤解していたことから、保安講習の対象者3人が受講していないものがみられる。一方、事業者の中には、危険物取扱者各人の保安講習の受講年度について一覧表等を作成して把握し、危険物取扱者全員に受講させているなど、積極的に保安講習の受講を支援しているものもみられる。

④ 定期自主点検が義務付けられている235事業者における定期自主点検の実施状況をみると、99事業者(42.1)において、i)定期自主点検を実施していないもの(29事業者)ii)実施しているが、点検項目が不十分なもの(43事業者)iii)点検記録を保存等していないもの(22事業者、iv)定期点検記録に虚偽の記載があるもの(10事業者)v)定期自主点検において改善すべきとされた事項が改善されていないもの(4事業者)がみられる。中には、i)定期自主点検の必要性を承知していないことから、点検様式も作成していないもの、ii)点検記録ではすべての点検項目について「異常なし」としているが、当庁が危険物施設を調査した結果、施設の維持管理に明らかに異常が認められるものがみられる。

(2) 指導監督の実効確保

危険物施設の保安の徹底を図るため、消防機関は、消防法第16条の5第1項に基づき、指定数量以上の危険物を貯蔵し、又は取り扱っていると認められるすべての場所に対し立入検査を行うことができることとされており、平成7年度中に消防機関が立入検査を行った危険物施設の施設数は304,852施設で全体(56108施設)54.4%に当たる。なお、消防機関は、他の消防機関が許可した移動タンク貯蔵所(タンクローリー)への立入検査において法令違反を指摘した場合は、同法第11条の5第3項に基づき、当該移動タンク貯蔵所を許可した消防機関に速やかにその旨を通知しなければならないこととされている。

また、市町村長等は、消防法に違反して危険物の貯蔵及び取扱いをした事業者に対して、同法第12条第2項に基づく技術基準維持の命令、同法第12条の2に基づく危険物施設の使用停止命令等(以下、これらを総称して「措置命令」という。)を行うことができることとされている。

さらに、危険物取扱者についても、消防法又は同法に基づく命令の規定に違反している場合には、都道府県知事は、同法第13条の2第5項に基づき、当該危険物取扱者の危険物取扱者免状の返納を命ずる(以下「返納命令」という。)ことができることとされている。

なお、消防庁は、返納命令の全国統一的な運用を図るため、「危険物取扱者免状の返納命令に関する運用基準の策定について」(平成31219日付け消防危第119号消防庁危険物規制課長通知。以下「返納命令運用基準」という。)を定め、平成44月より運用を開始している。返納命令運用基準において、消防機関は、危険物取扱者に法令違反が発生した場合、違反状況を具体的かつ明確に記載した危険物取扱者違反処理報告書を都道府県知事に提出することとされており、当該報告を受けた都道府県知事は、当該違反に係る違反点数を算出するとともに、過去3年以内における違反点数を累積し、その点数が20点に達した場合には返納命令を行うこととされている。

今回、45消防機関による事業者に対する立入検査の実施状況等を調査した結果、次のような状況がみられた。

① 立入検査の実施状況等

(i) 立入検査の実施状況

調査した45消防機関における立入検査の実施状況をみると、25機関において、i)実施体制が十分でないため実施方針を定めても、そのとおりに実施できない等の理由により、実施方針を定めていないもの(16機関)ii)実施方針を定めていても実施方針どおりに実施していないもの(9機関)がみられる。中には、i)実施方針を定めておらず、5年間立入検査を実施していない事業者がみられるにもかかわらず、前年度の立入検査で指摘がほとんどみられない事業者に対して2年続けて立入検査を実施しているものや、ii)実施方針では年に2回以上立入検査を実施するとしながら、10年以上の長期間にわたり立入検査を実施していない事業者がみられるものがある。なお、立入検査の実施方針を定めている消防機関の中には、立入検査の実施体制等を勘案して、前年度の立入検査において指摘事項がない事業者に対し、頻度を緩和するなど効率的に立入検査を実施しているものがみられる。

平成5年度以降に発生した危険物施設における火災の発生原因は、人的要因が約6割を占めており、また、調査した190事業者のうち164事業者(86.3)において、従業員に対する予防規程の周知や保安教育等のソフト面の不適切事例がみられるが、190事業者に対する平成5年度以降の立入検査における指摘状況をみると、施設の維持管理(ハード面)に関する項目の指摘が500件と多く、従業員に対する予防規程の周知や保安教育等ソフト面の項目に関する指摘は79件と少ないものとなっている。

なお、消防庁は、立入検査の実施に当たっての具体的な検査方法は示しているものの、立入検査の実施方針の作成に関しては、その判断を各消防機関に委ね、具体的な指針等は示していない。

(ii) 指摘事項の改善状況

調査した206事業者のうち24事業者(11.7)において、立入検査で指摘された事項が改善されていない。また、調査した35消防機関における指摘事項の改善確認状況をみると、24機関において、i)改善状況の確認を改善報告書を提出してきた1部の事業者のみしか実施してないもの(21機関)ii)立入検査の記録がなく、指摘事項の改善状況の確認ができない状況になっているもの(3機関)がみられ、指摘事項の改善確認が不十分なものとなっている。

(iii) 移動タンク貯蔵所に対する立入検査の実施状況

移動タンク貯蔵所に対する路上での立入検査の実施状況をみると、調査した35消防機関中26機関で他の消防機関が許可した移動タンク貯蔵所について法令違反の指摘を行っている。しかし、このうち8機関は、通知すべきことを承知していなかったことや、緊急レバー機能の不良等事故など緊急時に危険物の漏えいが防止できない状況になっているにもかかわらず軽微な違反として、移動タンク貯蔵所を許可した消防機関に通知していないことから、許可した消防機関では、その違反事項が分からず、その改善状況を確認できないものがみられる。

② 危険物取扱者免状の返納命令の実施状況

全国における危険物取扱者免状の返納命令の実績は、平成3年度から7年度までの5年間で3件のみとなっている。また、調査した45消防機関においても、返納命令運用基準に基づき危険物取扱者免状を返納させているものは1機関のみで、その他の消防機関では、事業者への指導は違反者を作ることではなく危険物施設の保安管理が目的である等の考え方から、厳格な運用は行っていない状況がみられる。

しかし、調査した事業者の中には、返納命令運用基準に基づき違反点数を算出すると、予防規程を作成していない、危険物保安監督者の選・解任届を行っていない、定期自主点検を実施していない及び危険物施設の維持管理に法令違反があることから、返納命令に該当する20点以上の違反点数になるものがみられる。

なお、返納命令運用基準の内容は、違反行為に対して適用されるため、その適用においては、違反者が特定できることが前提となるが、例えば、危険物施設に違反が認められるものの危険物取扱者が複数いるために違反した危険物取扱者を特定できない場合には、当該基準の適用が困難であることから、返納命令が的確に運用できない場合が生じているとみられる。

③ 措置命令の発出状況

以上のように、立入検査等の実効の確保は不十分な状況にあるが、調査した35消防機関による平成7年度の立入検査における措置命令の発出状況をみると、措置命令制度を活用しなくても消防機関が指導することにより違反事項が改善できる等として、発出件数は4件のみとなっているが、調査した事業者の中には、腐食した配管からの危険物の漏えいなど即時の是正が必要なものや、平成5年度以降、5回の立入検査で同一の指摘を受けながら改善されていないなど、措置命令制度の積極的な活用が必要なものもみられる。

したがって、自治省は、事業者における自主保安管理の徹底を図るため、次の措置を講ずる必要がある。

① 危険物の貯蔵及び取扱い並びに危険物施設の維持管理について、関係法令で定める基準に則した適切な実施を図るため、i)予防規程の作成及び遵守の徹底、ii)危険物保安監督者の適切な選任及び業務の遂行、iii)保安講習の適切な受講、iv)定期自主点検の的確な実施について、事業者に対する指導を徹底するよう、市町村長等を指導すること。

② 事業者に対する①の指導の実効が確保されるよう、i)立入検査の重点的、効率的な実施及びソフト面への指導強化、ii)改善報告書の徴収等による改善の確保、iii)移動タンク貯蔵所の違反事項の許可消防機関への的確な通知、iv)危険物取扱者免状の返納命令に関する運用基準の厳正な運用、v)措置命令制度の積極的な活用について、市町村長等を指導すること。

 

 

inserted by FC2 system