消防危第123号

平成27年6月5日

各都道府県消防防災主管部長

東京消防庁・各指定都市消防長 殿

消防庁危険物保安室長

 

圧縮水素充填設備設置給油取扱所の技術上の基準に係る運用上の指針について

 

危険物の規制に関する規則の一部を改正する省令(平成27年総務省令第56)が本日公布・施行されることとなりました。

電気を動力源とする自動車等に水素を充填するための設備を有する給油取扱所(以下、「圧縮水素充填設備設置給油取扱所」という。)については、既に危険物の規制に関する政令(昭和34年政令第306号)第17条第3項第5号及び危険物の規制に関する規則(昭和34年総理府令第55号)第27条の5により技術上の基準が定められ、「圧縮水素充填設備設置給油取扱所の技術上の基準に係る運用上の指針について」(平成17年3月24日消防危第62消防庁危険物保安室長通知。以下「62号通知」という。)により運用をお願いしているところでありますが、今般、液化水素の貯槽を設置する圧縮水素充填設備設置給油取扱所に係る事項が盛り込まれるとともに所要の整備が行われたため、これらに係る事項について下記のとおり運用上の指針を定めたところです。

貴職におかれましては、下記事項に十分留意の上、その運用に配慮されるとともに、各都道府県消防防災主管部長におかれましては、貴都道府県内の市町村に対してもこの旨周知されるようお願いします。

なお、本通知は消防組織法(昭和22年法律第226)第37条の規定に基づく助言として発出するものであることを申し添えます。

また、これに伴って、62号通知は廃止します。

 

 

第1 圧縮水素充填設備設置給油取扱所の位置、構造及び設備の技術上の基準

1 圧縮水素スタンド、防火設備及び温度の上昇を防止する装置の定義に関する事項

(1) 圧縮水素スタンドとは、一般高圧ガス保安規則(昭和41年通商産業省令第53)第2条第1項第25号に定める「圧縮水素を燃料として使用する車両に固定した燃料装置用容器に当該圧縮水素を充填するための処理設備を有する定置式製造設備」をいい、水素を製造するための改質装置、液化水素を貯蔵する液化水素の貯槽、液化水素を気化する送ガス蒸発器、水素を圧縮する圧縮機、圧縮水素を貯蔵する蓄圧器、圧縮水素を燃料電池自動車に充填するディスペンサー、液化水素配管及びガス配管並びに液化水素、圧縮水素及び液化石油ガスを外部から受け入れるための受入設備の一部で構成されている。また、改質装置とは、ナフサなどの危険物のほか、天然ガス、液化石油ガスなどを原料として、これを改質し水素を製造する装置をいう。

(2) 防火設備とは、火災の予防及び火災による類焼を防止するための設備であって、蓄圧器に設けられる水噴霧装置、散水装置等をいう。

(3) 温度の上昇を防止する装置とは、蓄圧器及び圧縮水素を供給する移動式製造設備の車両が停止する位置に設けられる水噴霧装置、散水装置等をいう。

2 圧縮水素スタンドの各設備に係る技術上の基準に関する事項

圧縮水素スタンド(常用の圧力が82MPa以下のものに限る。以下同じ。)を構成する各設備は、一般高圧ガス保安規則第7条の3の規定によるほか、危険物の規制に関する規則(昭和34年総理府令第55号)第27条の5第5項第3号に定める基準に適合することとされているが、この場合、次の事項に留意すること。

(1) 液化水素の貯槽

自動車等(自動車、原動機付自転車その他の当該設備に衝突した場合に甚大な影響を及ぼすおそれのあるものをいう。以下同じ。)の衝突を防止するための措置とは、液化水素の貯槽の周囲に保護柵又はポール等を設ける方法があること。なお、液化水素の貯槽を自動車等が容易に進入できない場所に設置する場合は、当該措置が講じられているものとみなすこと。

(2) 送ガス蒸発器

自動車等の衝突を防止するための措置とは、送ガス蒸発器の周囲に保護柵又はポール等を設ける方法があること。なお、送ガス蒸発器を自動車等が容易に進入できない場所に設置する場合は、当該措置が講じられているものとみなすこと。

(3) 圧縮機

ア ガスの吐出圧力が最大常用圧力を超えて上昇した場合に圧縮機の運転を自動的に停止させる装置とは、圧縮機の圧力を圧力センサーにより検知し、電動機の電源を切ることにより、当該圧縮機の運転を停止させる異常高圧防止装置をいうこと。ただし、圧力が最大常用圧力を超えて上昇するおそれのないものにあってはこの限りでない。

イ 圧縮機の吐出側直近部分の配管には、逆止弁を設けることとされているが、蓄圧器側から圧縮機へのガスの逆流を防止できる位置である場合には、逆止弁を蓄圧器の受入側直近部分のガス配管に設けても差し支えないこと。

ウ 自動車等の衝突を防止するための措置とは、圧縮機の周囲に保護柵又はポール等を設ける方法があること。なお、圧縮機を自動車等が容易に進入できない場所に設置する場合は、当該措置が講じられているものとみなすこと。

(4) 蓄圧器

自動車等の衝突を防止するための措置とは、蓄圧器の周囲に保護柵又はポール等を設ける方法があること。なお、蓄圧器を自動車等が容易に進入できない場所に設置する場合は、当該措置が講じられているものとみなすこと。

(5) ディスペンサー

ア 自動車等のガスの充填口と正常に接続されていない場合にガスが供給されない構造とは、自動車等の充填口と正常に接続した場合に限り開口する内部弁をいうこと。

イ 著しい引張力が加わった場合に当該充填ホースの破断によるガスの漏れを防止する措置とは、自動車の誤発進等により著しい引張力が加わった場合に離脱し、遮断弁がはたらく緊急離脱カプラーをいうこと。

ウ 自動車等の衝突を防止するための措置とは、ディスペンサーの周囲に保護柵又はポール等を設ける方法があること。

エ 自動車等の衝突を検知する方法とは、衝突センサー等を設ける方法があること。

(6) 液化水素配管及びガス配管

ア 自動車等が衝突するおそれのない場所に設置する例としては、次のような方法があること。

() 液化水素配管及びガス配管をキャノピーの上部等に設置する方法

() 液化水素配管及びガス配管を地下に埋設する方法

() 液化水素配管及びガス配管をトレンチ内に設置する方法

イ 自動車等の衝突を防止するための措置とは、液化水素配管及びガス配管の周囲に防護柵又はポール等を設ける方法があること。

ウ 液化水素配管又はガス配管から火災が発生した場合に給油空地等及び専用タンク等の注入口への延焼を防止するための措置とは、液化水素配管又はガス配管が地上部(キャノピー上部を除く。)に露出している場合に液化水素配管及びガス配管の周囲に防熱板を設ける方法があること。

エ 配管の接続部の周囲に設けるガスの漏れを検知することができる設備とは、当該ガスの爆発下限界における4分の1以下の濃度で漏れたガスを検知し、警報を発するものをいうこと。また、当該設備は漏れたガスに対して防爆構造を有するほか、ガソリン蒸気等の可燃性蒸気が存在するおそれのある場所に設置される場合にあっては、漏れたガス及び可燃性蒸気に対して防爆構造を有するものであること。

オ 蓄圧器からディスペンサーへのガスの供給を緊急に停止することができる装置とは、遮断弁及び遮断操作部をいうこと。遮断弁は、蓄圧器からガスを送り出すためのガス配管に設けること。また、遮断操作部は、事務所及び火災その他の災害に際し速やかに操作することができる箇所に設けること。

(7) 液化水素、圧縮水素及び液化石油ガスの受入設備

ア 受入設備とは、液化水素、圧縮水素及び液化石油ガスの受入れのために設置される設備であり、例えば液化水素の充填車両と液化水素の貯槽との接続機器等(受入ホース、緊結金具等)や液化水素の貯槽の充填口等をいう。

イ 給油空地等において液化水素又はガスの受入れを行うことができない場所とは、給油空地等に液化水素、圧縮水素又は液化石油ガスの充填車両が停車し、又は受入設備と当該充填車両の接続機器(注入ホース、緊結金具等)等が給油空地等を通過した状態で受入れを行うことができない場所であること。

ウ 自動車等の衝突を防止するための措置とは、受入設備の周囲に保護柵又はポール等を設ける方法があること。なお、受入設備を自動車等が容易に進入できない場所に設置する場合は、当該措置が講じられているものとみなすこと。

3 その他の技術上の基準に関する事項

上記2の他、圧縮水素充填設備設置給油取扱所は、危険物の規制に関する規則(昭和34年総理府令第55号)第27条の5第6項に定める基準に適合することとされているが、この場合、次の事項に留意すること。

(1) 改質装置、液化水素の貯槽、送ガス蒸発器、圧縮機及び蓄圧器と給油空地等、簡易タンク及び専用タンク等の注入口との間に設置する障壁は、次のいずれかによるものとすること。なお、液化水素の貯槽については、加圧蒸発器及びバルブ類、充填口、計測器等の操作部分が障壁の高さよりも低い位置となるように設置すること。

ア 鉄筋コンクリート製

直径9mm以上の鉄筋を縦、横40cm以下の間隔に配筋し、特に隅部の鉄筋を確実に結束した厚さ12cm以上、高さ2m以上のものであって堅固な基礎の上に構築され、予想されるガス爆発の衝撃等に対して十分耐えられる構造のもの。

イ コンクリートブロック製

直径9mm以上の鉄筋を縦、横40cm以下の間隔に配筋し、特に隅部の鉄筋を確実に結束し、かつ、ブロックの空洞部にコンクリートモルタルを充填した厚さ15cm以上、高さ2m以上のものであって堅固な基礎の上に構築され、予想されるガス爆発の衝撃等に対し十分耐えられる構造のもの。

ウ 鋼板製

厚さ3.2mm以上の鋼板に30×30mm以上の等辺山形鋼を縦、横40cm以下の間隔に溶接で取り付けて補強したもの又は厚さ6mm以上の鋼板を使用し、そのいずれにも1.8m以下の間隔で支柱を設けた高さ2m以上のものであって堅固な基礎の上に構築され、予想されるガス爆発の衝撃等に対して十分耐えられる構造のもの。

(2) 防火設備又は温度の上昇を防止する装置から放出された水が、給油空地等、ポンプ室等及び専用タンク等の注入口付近に達することを防止するための措置とは、給油空地等、ポンプ室等及び専用タンク等の注入口付近と散水される範囲との間に排水溝を設置すること等をいうこと。なお、排水溝は、散水装置等の設置状況及び水量を考慮して、排水能力(幅、深さ、勾配等)が十分なものとすること。

(3) 固定給油設備、固定注油設備、簡易タンク又は専用タンク等の注入口から漏れた危険物が、ディスペンサーに達することを防止するための措置とは、固定給油設備、固定注油設備、簡易タンク又は専用タンク等とディスペンサーの間に排水溝を設置すること等をいうこと。なお、排水溝は、散水装置等の設置状態及び水量を考慮して、排水能力(幅、深さ、勾配等)が十分なものとすること。

(4) 固定給油設備(懸垂式のものを除く。)、固定注油設備(懸垂式のものを除く。)及び簡易タンクに講ずる自動車等の衝突を防止するための措置とは、これら設備の周囲に保護柵又はポール等を設ける方法があること。

(5) 圧縮水素スタンドの設備から火災が発生した場合に簡易タンクへの延焼を防止するための措置とは、簡易タンクと圧縮水素スタンドの設備の間に防熱板を設ける方法があること。

(6) 固定給油設備又は固定注油設備から火災が発生した場合にその熱が当該貯槽に著しく影響を及ぼすおそれのないようにするための措置とは、固定給油設備又は固定注油設備における火災の輻射熱により、液化水素の貯槽内の圧力が著しく上昇しないようにする措置をいうこと。

液化水素の貯槽内の圧力が著しく上昇しないようにする措置としては、障壁により輻射熱を遮る措置や、障壁の設置に加え、障壁又は固定給油設備及び固定注油設備を液化水素の貯槽から離して設ける措置が考えられる。なお、その他の方法により有効に火災の輻射熱による液化水素の貯槽内の圧力の著しい上昇を防止する対策についても今後検討していく必要がある。

ア 障壁により輻射熱を遮る措置

固定給油設備及び固定注油設備と液化水素の貯槽との間に、液化水素の貯槽の高さよりも高い障壁を設けること。

なお、液化水素の貯槽の高さとは、地盤面から貯槽の貯蔵容器の頂点までの高さであること。

図1 液化水素の貯槽の高さ

 

イ 障壁の設置に加え、障壁又は固定給油設備及び固定注油設備を液化水素の貯槽から離して設ける措置(障壁の高さが液化水素の貯槽の高さ以下の場合)

液化水素の貯槽が、火災時の火炎に30分間以上耐えることができ、かつ、貯槽の外面の温度が650℃までであれば貯槽内の許容圧力を超えないよう安全装置の吹き出し量が設計されているもの注)については、30分以内に貯槽表面の温度が650℃に達しないことを前提として、例えば、障壁の高さが2mの場合については、表1に示す措置を講ずること。なお、1の固定給油設備でガソリンと軽油の両方の油種を給油出来る場合は、両方を満たすよう措置を講ずること。

)「一般高圧ガス保安規則の機能性基準の運用について」(20121204商局第6号)「13.圧力計及び許容圧力以下に戻す安全装置」2.2(2)(i)参照

 

表1 高さ2mの障壁における障壁又は固定給油設備及び固定注油設備を液化水素の貯槽から離して設ける措置

最大

吐出量

措置

障壁から必要な最短水平距離を確保する方法(図2参照)

固定給油設備及び固定注油設備から必要な水平直線距離を確保する方法(図3参照)

50/min以下

障壁を液化水素の貯槽から最短水平距離で2.1m以上離して設置すること。

固定給油設備を液化水素の貯槽から水平直線距離で3.9m以上離して設置すること。

この場合において、舗装の勾配等により危険物が液化水素貯槽に向かって流れる可能性がないこと。

180/min以下

障壁を液化水素の貯槽から最短水平距離で2.3m以上離して設置すること。

固定給油設備を液化水素の貯槽から水平直線距離で6.0m以上離して設置すること。

この場合において、舗装の勾配等により危険物が液化水素貯槽に向かって流れる可能性がないこと。

90/min以下

障壁を液化水素の貯槽から最短水平距離で2.3m以上離して設置すること。

固定給油設備を液化水素の貯槽から水平直線距離で5.0m以上離して設置すること。

この場合において、舗装の勾配等により危険物が液化水素貯槽に向かって流れる可能性がないこと。

180/min以下

障壁を液化水素の貯槽から最短水平距離で3.0m以上離して設置すること。

固定注油設備を液化水素の貯槽から水平直線距離で6.5m以上離して設置すること。

この場合において、舗装の勾配等により危険物が液化水素貯槽に向かって流れる可能性がないこと。

60L/min以下

障壁を液化水素の貯槽から最短水平距離で2.0m以上離して設置すること。

固定注油設備を液化水素の貯槽から水平直線距離で4.0m以上離して設置すること。

この場合において、舗装の勾配等により危険物が液化水素貯槽に向かって流れる可能性がないこと。

 

 

図2 障壁から必要な最短水平距離を確保する方法

 

 

図3 固定給油設備及び固定注油設備から必要な水平直線距離を確保する方法

 

第2 留意事項

1 消防法上の設置の許可に係る事項

(1) 圧縮水素充填設備設置給油取扱所を設置する場合は、消防法(昭和23年法律第186号)第11条第1項の許可の他に高圧ガス保安法(昭和26年法律第204)第5条又は第14条の許可を受ける必要がある。その場合、高圧ガス保安法の許可後に、消防法の許可を行う必要があること。なお、危険物の規制に関する規則第27条の5第5項第3号に掲げる設備が、一般高圧ガス保安規則第7条の3中の当該設備に係る規定に適合していることの確認は、高圧ガス保安法の許可を受けていることの確認をもって行うこと。

(2) 高圧ガス保安法に係る設備については、他の行政庁等により完成検査(高圧ガス保安法第20条)が行われることを踏まえ、危険物の規制に関する規則第27条の5第5項第3号に掲げる設備における完成検査(消防法第11条第5項)においては、他の行政庁等による完成検査の結果の確認をもって行うことができるものとすること。

2 予防規程の中に、圧縮水素等による災害その他の非常の場合にとるべき措置に関する事項を定めること(危険物の規制に関する規則第60条の2第11号)

 

図4 改質装置を設置する圧縮水素充填設備設置給油取扱所の例

 

図5 液化水素の貯槽を設置する圧縮水素充填設備設置給油取扱所の例

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