消防危第154号

平成24年6月7日

各都道府県消防防災主管部長

東京消防庁・各指定都市消防長 殿

消防庁危険物保安室長

 

ナトリウム・硫黄電池を設置する一般取扱所の火災対策について

 

先般、茨城県内のナトリウム・硫黄電池を設置する一般取扱所(以下「ナトリウム・硫黄電池施設」という。)において火災が発生しました。この火災は、火災発生から短時間で延焼拡大し、幅約2.2m、奥行約1.8m、高さ約0.7mのモジュール電池10台が全焼した上、その他のモジュール電池も一部焼損しました。この火災に対し、消防隊は乾燥砂による消火を行いましたが、覚知から鎮圧までに約8時間、鎮火までに15日間という期間を要しました。

この度、第三者機関の評価により、当該火災の発生原因及び延焼拡大要因が明らかになるとともに、他のナトリウム・硫黄電池施設を含めた当面の延焼防止対策がとりまとめられたことから、当該評価を元にした火災対策を含め、別紙のとおり情報を提供します。

貴職におかれましては、当該火災対策等に十分に配慮されるとともに、各都道府県におかれましては、貴管内の市町村(消防の事務を処理する一部事務組合等を含む。)に対してもこの旨周知されるようお願いします。

 

別紙

 

第1 ナトリウム・硫黄電池施設火災の概要

1 時系列

年 月 日

時 刻

内 容

平成23921()

710分頃

火災発見

723

遠隔監視システムにおいて異常による警報発生

731

覚知日時

812

モジュール電池延焼拡大

1310分頃

乾燥砂8トンが現地到着、消火開始

1555

鎮圧

平成23105()

1525

鎮火

2 ナトリウム・硫黄電池施設の概要

一般取扱所(硫黄23,962kg、ナトリウム11,981kg。設置完成年月日は平成161118)で、モジュール電池40台により構成(定格出力2,110kW、容量15,200kW時、電圧615)されており、満充電状態で放電待機中だった。

なお、平成21615日に全電池を新品に交換している。

3 焼損物件

モジュール電池40台中10台全焼、20台半焼

4 火災発生及び延焼拡大原因

(1) ナトリウム・硫黄電池施設(別図1参照)のうち、モジュール電池(別図2参照)を構成する単電池(別図3参照)の1本に製造不良があり、当該単電池が開放破壊したことにより、高温の溶融物が流出した。

(2) 溶融物がモジュール電池内のブロック間にある砂層をまたぎ、当該砂層をまたいだ単電池間で短絡が発生した(別図4参照)

(3) 短絡の発生した単電池間には、電気回路的にヒューズが設置されていなかったことから、1,000Aを超える循環電流が継続的に発生した(別図5参照)

(4) 開放破壊した単電池の周囲の単電池は、循環電流及び高温溶融物との接触により温度が上昇したことから、単電池が高抵抗化することでジュール熱が継続的に発生し、多数の単電池がモジュール内で開放破壊し、延焼拡大した。

(5) 多数の単電池の燃焼によって、約2,000度の火炎が上部に設置したモジュール内の単電池容器を溶解させ、さらに延焼拡大した。同時に、高温の溶融物が下部に設置したモジュール電池内へ大量に流出し、同様に単電池容器を溶解させ、延焼拡大した。

 

第2 ナトリウム・硫黄電池施設の現状

1 今回の火災原因とされた単電池と同ロットの他の単電池については構造不適合のものでなかったこと及び既存のナトリウム・硫黄電池施設では当該不適合により発生した初の火災であることから、単電池の製造不良は非常に少ないものと思われる。しかしながら、これまでに出荷された単電池の全数を点検し、未然に、かつ確実に事故を防止することは技術的に困難であることから、今後、ナトリウム・硫黄電池施設の延焼火災の発生リスクが皆無であるとはいえないこと。

2 「ナトリウム・硫黄電池を設置する危険物施設の技術上の基準等について」(平成11年6月2日付け消防危第53号。以下「53号通知」という。)別添2、(4)において、単電池を強制的に破壊、発火させた場合、周囲の単電池に破壊が連鎖拡大せず、自己消火すること(以下「自己消火性」という。)を一般取扱所としての位置、構造及び設備の技術上の基準の特例要件として求めているが、既存のモジュール電池の一部に、特殊な条件が重畳した場合に自己消火性を満たさないものが存在する可能性があること。

3 ナトリウム・硫黄電池の製造メーカ(以下「製造メーカ」という。)の設置者に対する自主的な要請により、現在設置されているほぼ全てのナトリウム・硫黄電池施設の使用を充電状態で常温静置により停止(以下「停止運転」という。)し、又は最小限の充電容量による待機運転(以下「待機運転」という。)を行っていること。

 

第3 ナトリウム・硫黄電池施設に係る今後の対応

1 停止運転又は待機運転である場合、万一当該単電池の不良により開放破壊が起きたとしても、連鎖的な多数の単電池の開放破壊による延焼拡大の可能性は極めて低いと考えられること。

なお、停止運転時及び待機運転時の安全性については、製造メーカが単電池を強制的に短絡させる実験により実証済であり、このとき二酸化硫黄ガスは発生しなかったこと。

2 ナトリウム・硫黄電池施設について通常の運転(以下「通常運転」という。)を行うに当たり、第三者機関から評価を受けた製造メーカによる自主的な改修として、以下に示すモジュール電池の延焼防止対策が講じられる予定であること。

(1) 過大な短絡電流が発生すると延焼拡大の要因となることから、モジュール電池内の単電池間に、さらにヒューズを追加すること(別図6参照)

(2) 過大な短絡電流が発生すると延焼拡大の要因となることから、溶融物がブロック間をまたぐことのないよう、モジュール電池内に単電池を隔てる短絡防止板を追加すること(別図7参照)

(3) 隣接モジュールへの延焼拡大を防止するため、モジュール電池間に延焼防止板を追加すること(別図8参照)

3 前2の対策以外に、今後、製造メーカで自主的に単電池の製造不良等対策の取組が行われるが、相当の時間を必要とすると見込まれていること。

 

第4 既存のナトリウム・硫黄電池施設に係る安全強化対策

第3、2及び3の対策が講じられるまでの間、製造メーカは、停止運転又は待機運転を行う方針であるとしているが、第3、2に加え、以下の対策を講ずることにより、万一単電池の開放破壊が発生した場合であっても、モジュール間の延焼防止等、ナトリウム・硫黄電池施設の安全性を高めることが可能であると考えられることから、運転の必要性の高い設置者等から暫定的な運転等について相談があった場合には適切に対応されたいこと。

なお、万一火災が発生して延焼拡大した場合、禁水性であることから消火困難であること、有毒ガスを含む煙が発生・充満する可能性があること等に鑑み、製造メーカから当該煙が充満するおそれのある場所(専用の建屋に設置してあるナトリウム・硫黄電池施設を除く。)にはナトリウム・硫黄電池施設を設置しない方針であるとの報告を受けているが、屋外設置か屋内設置か、ナトリウム・硫黄電池施設の近辺において人の出入管理がなされているか等、当該施設の設置環境に十分留意の上、通常運転の可否について判断されたいこと。

1 従来設置してあった消火設備に加え、各ナトリウム・硫黄電池施設に膨張ひる石、乾燥砂等を積載した消火装置を設置するとともに、速やかに使用することができるよう体制を整備すること。

また、ナトリウム・硫黄電池施設の設置場所の近辺に40kg(400)の膨張ひる石を設置し、常時消火を行うことのできる状態とすること。さらに、ナトリウム・硫黄電池が万一延焼拡大した場合には、追加で40tonの乾燥砂を、3時間以内を目途に火災現場へ搬送できるよう配備すること。

2 ナトリウム・硫黄電池火災が発生した場合、二酸化硫黄、硫化水素等の有毒ガスが発生することから、当該ガスに対応した防毒マスクを設置するとともに、簡易的な防火服を設置し、火災発生初期に設置者等が活用する体制を整備すること。

3 53号通知第3、1に示すナトリウム・硫黄電池の監視、制御等に加えて、火災の発生を早期に発見するため、二酸化硫黄ガス濃度の測定等により監視を行うこと。

4 予防規程のうち、53号通知第3、2、(3)に示す「火災等の緊急時における連絡体制及び対応体制」に対して、異常が認められた場合、ナトリウム・硫黄電池施設の周辺にいる者に、適切な場所へ即座に避難を行わせる体制を確保することについて追加すること。その際、二酸化硫黄、硫化水素等の有毒ガスが発生する可能性があることから、当該ガスが風下へ、かつ熱により上方へ流動することを考慮した避難経路及び避難誘導経路を策定すること。

 

第5 ナトリウム・硫黄電池施設に対する消火活動の留意事項

ナトリウム・硫黄電池施設の火災時において消防隊が消火活動を行うに当たり、次の事項に留意すること。

1 ナトリウム・硫黄電池施設内部のモジュール電池は、その状況が外部から視認し難いことから、危険物取扱者等との連絡を密にし、温度測定値、電圧測定値等を元にした出火箇所の把握を確実に行うこと。

2 ナトリウム・硫黄電池から出火し、万一延焼した場合、有毒ガスが発生することから、ガス検知器の活用、防護衣及び空気呼吸器の着装等に留意すること。

3 製造メーカによる実験から得られた結果、以下の知見が得られたので、活動上の参考とされたいこと。

なお、安全かつ効果・効率的な活動のため、危険物取扱者等と連携を密にした活動に留意されたいこと。

(1) 1本の単電池から火災が発生した場合において、万一自己消火しなかった場合、ナトリウムと硫黄の反応時間は約3分から20分であり、その間、約2,000度の高温反応が起こること。

(2) 単電池の破裂音の停止が10分以上継続し、かつ火炎がモジュール電池の外部に噴出していない場合、ナトリウムと硫黄の反応が終了したものと想定されること。

(3) ナトリウムと硫黄の反応中に膨張ひる石等による消火を行うと、当該反応の反応熱が蓄熱されることにより、延焼を助長する可能性があること。

(4) 鎮圧後、焼損部分の温度が下がり、二酸化硫黄ガスの発生がなくなった時点をもって鎮火したものと想定されること。

 

 

別図1 ナトリウム・硫黄電池施設の外観

 

別図2 モジュール電池の構造

 

別図3 単電池の構造

 

別図4 モジュール電池内におけるブロック間の短絡

 

別図5 モジュール電池内の回路図

 

別図6 ヒューズの追加

 

別図7 短絡防止板の追加

 

別図8 延焼防止板の追加

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