消防危第140号
平成24年5月23日
改正:平成24年12月18日消防危第263号
各都道府県消防防災主管部長
東京消防庁・各指定都市消防長 殿
消防庁危険物保安室長
危険物から水素を製造するための改質装置の遠隔監視に必要な安全対策について
一般高圧ガス保安規則(昭和41年通商産業省令第53号)第2条第25号に規定する圧縮水素スタンドの中には、危険物から水素を製造するための改質装置(以下「改質装置」という。)を設置するものがあります。当該改質装置は約825℃程度の反応温度でガソリン等を改質して水素を発生させることから、水素の製造を迅速に開始するため、水素の製造を停止している夜間時等に暖機運転をしておく必要があります。このため、暖機運転時においても、バーナー等でガソリン、灯油等を燃焼する等の危険物の取扱いがあるため、危険物取扱者が危険物を取り扱う、又は危険物取扱者以外の者が危険物を取り扱う場合は危険物取扱者が立ち会うことが必要になります。
このような状況を踏まえ、消防庁では、「圧縮水素充てん設備設置給油取扱所の安全対策に係る検討会」を開催し、当該暖機運転を遠隔監視により行う場合の安全対策について検討を行ってきたところです。
今般、当該検討会の検討結果を踏まえ、必要な安全対策について下記のとおり取りまとめましたので、貴職におかれましては、このことに留意され、引き続き適切な運用をお願いするとともに、貴管内の市町村(消防の事務を処理する一部事務組合等を含む。)に対してもこの旨周知されるようお願いします。
なお、本通知は消防組織法(昭和22年法律第226号)第37条の規定に基づく助言として発出するものであることを申し添えます。
また、本通知中のおいては、法令名について次のとおり略称を用いたのでご承知おき願います。
危険物の規制に関する規則(昭和34年総理府令第55号)・・・規則
記
改質装置の暖機運転時において、次の措置が講じられている場合にあっては、遠隔監視とすることができること。
第1 改質装置の要件
暖気運転時の遠隔監視をすることができる改質装置の要件は、次のとおりである。
(1) 改質装置にはJPEC(一般財団法人石油エネルギー技術センター)自主基準(別紙1参照)に掲げる安全対策が講じられていること。
(2) 改質装置の運転状況を遠隔で監視・制御するための装置を設置すること。
(3) 鋼板の箱内に設置される改質装置にあっては、箱内にガス検知器及び換気装置を設置し、換気装置が故障等により停止した際に自動的に改質装置の運転を停止する装置を設置すること。
(4) 事故発生時に監視者等が遠隔操作により改質装置の運転を停止することができる装置を設置すること。
(5) 手動により改質装置の運転を停止することができる装置を設置すること。
第2 改質装置の暖機運転時の遠隔監視に係る予防規程等に関する事項
1 危険物取扱者による取扱い
改質装置を監視する者は危険物取扱者とし、監視・制御装置の操作方法等に関する知識・技能を有する者であること。
2 予防規程
予防規程を定める必要のある危険物施設においては、次の事項を予防規程に明記すること。
(1) 改質装置の監視、制御を行う場所(規則第60条の2第1項第6号関係)
(2) 改質装置の監視、制御を行う体制(規則第60条の2第1項第6号関係)
(3) 改質装置における火災等の緊急時における連絡体制(消防機関への通報を含む)及び対応体制(規則第60条の2第1項第11号関係)
(4) 改質装置における火災等の緊急時における連絡及び対応についての訓練(規則第60条の2第1項第4号関係)
第3 火災等の緊急時における対応
第1及び第2に適合する改質装置の遠隔監視に係る体制等については、例えば別紙2に示す方法があるので、これを踏まえ、火災等の緊急時において、危険物保安監督者等が迅速かつ確実に駆けつける体制をとるよう指導されたいこと。
別紙1
改質装置の安全対策(JPEC自主基準)
No. |
安全対策 |
内容 |
(1) |
感震装置による自動停止装置 |
感震装置の検知により改質装置の運転を停止する場合は、改質装置の運転を自動的に停止し、かつ、警報を発する措置を講ずること。 |
(2) |
停電時の自動停止措置 |
改質装置には、停電時に改質装置の運転を自動的に停止するための機能を有すること。 |
(3) |
計装用空気圧力等の低下時の自動停止装置 |
改質装置には、計装圧力低下時に改質装置の運転を自動的に停止するための機能を有すること。 |
(4) |
改質装置原燃料配管への緊急遮断装置の設置 |
改質装置の原燃料を受け入れる配管には、緊急時に原燃料を自動的に遮断するための措置を講ずること。ただし、一般高圧ガス保安規則第7条第2項第6号により当該製造施設の外部から供給される原燃料を受け入れる配管に、緊急時に原燃料を自動的に遮断するための措置を講じた場合はこの限りでない。 |
(5) |
改質炉バーナー失火検知と自動停止装置 |
改質装置には、改質炉バーナーの失火を検知し、警報し、かつ、改質装置の運転を自動的に停止するための措置を講ずること。 |
(6) |
改質装置の温度維持管理と自動停止措置 |
改質装置には、設定温度を逸脱した場合には、警報し、かつ、改質装置の運転を自動的に停止するための措置を講ずること。 |
(7) |
改質装置の圧力安全装置の設置 |
改質装置の圧力安全装置を設けること。 |
(8) |
圧力安全装置への放出管の設置 |
(7)の自主基準により設けた圧力安全装置のうち安全弁又は破裂板には放出管を設けること。この場合において、放出管の開口部の位置は、放出するガスの性質に応じた適切な位置であること。 |
(9) |
可燃性物質の漏えい検知と自動停止措置 |
改質装置には、可燃性物質の漏えいを検知した場合には、警報し、かつ、改質装置の運転を自動的に停止するための措置を講ずること。 |
(10) |
吸気、排気ブロアーの異常検知と自動停止措置 |
改質装置の吸気、排気ブロアーには、設定した運転状態を逸脱した場合には、警報し、かつ、改質装置の運転を自動的に停止するための措置を講ずること。 |
(11) |
外面腐食等を防止する措置 |
① 炭素鋼製配管(保温配管を含む)並びに炭素鋼板にあっては、防錆塗装等による腐食防止措置を行うこと。 ② 貯槽(吸着塔を含む)に接続した炭素鋼製配管(保温配管を含む)並びに炭素鋼製貯槽(吸着塔を含む)にあっては、防錆塗装等による腐食防止措置を行うこと。 |
(12) |
安全設計と運転の自動化 |
改質装置の安全・制御装置は、装置に異常が生じた場合に安全側に作動するものとし、日常の運転操作は自動化すること。 |
(13) |
改質装置の固定 |
改質装置は、コンクリート基礎上又は堅牢な建造物等に固定すること。 |
別紙2
遠隔監視体制の例
1 遠隔監視体制について
(1) 信号の種類
危険物を原料とする改質装置から、以下に示す信号を監視者等へ送信する。
① アラーム信号(事前警報):表にアラーム信号設定値の例を示す。
《次に掲げる要因が発生した場合に、監視者等へ信号を送信》
ア 計装空気等の圧力低下
イ 改質装置の温度異常
ウ 改質装置の圧力異常
エ 改質装置原料タンクの液面低下
オ 可燃性物質の漏えい
② シャットダウン信号:表にシャットダウン信号設定値の例を示す。
《次に掲げる要因が発生した場合に、監視者等へ信号を送信》
ア 設定以上の地震動
イ 停電の発生
ウ 計装空気等の圧力低下
エ 改質炉バーナーの失火
オ 改質装置の温度異常
カ 改質装置の圧力異常
キ 改質装置原料タンクの液面低下
ク 可燃性物質の漏えい
ケ 吸気・排気ブロアー、改質装置エンクロージャー換気装置停止等
③ 自動停止異常信号(自動停止が正常に作動しなかった場合の信号)
表 改質装置のアラーム及びシャットダウン信号設定値の例
要 因 |
アラーム信号 |
シャットダウン信号 |
設定以上の地震動 |
-- |
150 カ゛ル |
停電の発生 |
-- |
停電発生 |
計装空気等の圧力低下 |
0.5MPa |
0.4MPa |
改質炉バーナーの失火 |
-- |
失火信号 |
改質装置の温度異常 |
|
|
・改質管表面温度 |
低:730℃、高:930℃ |
低:700℃、高:950℃ |
・変成器温度 |
低:300℃、高:440℃ |
低:250℃、高:500℃ |
改質装置の圧力異常 |
|
|
・原料圧力 |
0.85MPa |
0.95MPa |
改質装置原料タンクの液面低下 |
10% |
5% |
可燃性物質の漏えい |
|
|
・原料危険物蒸気 |
LEL の15% |
LEL の25% |
・改質炉ガス |
1000ppm |
1500ppm |
吸気・排気ブロワー、改質装置エンクロージャー換気装置停止等 |
-- |
停止信号 |
※ 設定値等は、改質装置の設計条件・設備構成に基づき適切に設定する必要があるため、詳細は個別に決定する必要がある。
(2) 信号の流れ(図1及び図2 Step-1)
改質装置から送信される信号の伝達については、以下のとおり。
Case-1:事業者自ら遠隔監視を実施する場合
・水素スタンド内の改質装置制御盤から危険物保安監督者および関係従業員(注1)に、2系統の携帯電話網等(注2)により(1)①~③の信号を送信する。
Case-2:警備会社等を活用し遠隔監視を実施する場合
・水素スタンド内の改質装置制御盤から危険物保安監督者および関係従業員(注1)に、(1)①~③の信号を送信する。
・水素スタンド内の改質装置制御盤から警備会社等に、(1)②の一括または個別信号、及び③の信号を送信する。
(注1):受信者は保安監督者だけでなく、関係従業員を含む複数名とする。
(注2):複数の携帯電話会社の回線網等を使用する。
2 緊急時の対応について
(1) アラーム信号、シャットダウン信号受信時の対応(図1及び図2 Step-2)
ア アラーム信号を受信した場合
《危険物保安監督者》
・駆けつけ準備をする。
・アラーム信号の内容を確認し、内容に応じた対応をとる。
イ シャットダウン信号を受信した場合
《危険物保安監督者》
・直ちに水素スタンドに駆けつける。
なお、地震情報等により設定以上の地震動が発生したと判断した場合は、信号の有無にかかわらず、駆けつけるものとする。
・あらかじめ定めた緊急連絡体制に基づき、関係行政等に異常事態発生を通報する。
・従業員に対し、緊急招集連絡を行う。
・現場到着後に状況を確認し、必要に応じて手動などの手段にて改質装置を強制停止させる。
・駆けつけた従業員を指揮して緊急時対応を行う。
《警備会社等》
・直ちに危険物保安監督者に異常信号受信の連絡を実施する。
・水素スタンドに駆けつけ、状況を確認し危険物保安監督者へ連絡する。
・火災発生時は手動停止ボタンによる緊急運転停止操作等を行う。
(2) 自動停止異常信号受信時の対応(図1及び図2 Step-3)
自動停止異常信号を受信した場合、(1)イの対応に加え、遠隔操作により改質装置を強制的に停止させる。その方法は以下のいずれかとする。
Case-1:危険物保安監督者が携帯電話回線等を使用し、強制停止信号を送信し装置を停止させる。
Case-2:危険物保安監督者の指示により警備会社等が固定電話回線等を使用し、強制停止信号を送信し装置を停止させる。
なお、危険物保安監督者が不在の場合に備え、関係従業員の中で予め代行者の順位を定めておくものとする。
3 教育・訓練について
危険物保安監督者は、事故発生時の対応や緊急連絡体制(緊急通報を含む)に関し、必要な計画を立案し訓練を実施するとともに、教育記録を残すものとする。
図1 改質装置遠隔監視体制について(Case-1: 事業者自ら遠隔監視を実施する場合)
図2 改質装置遠隔監視体制について(Case-2: 警備会社等を活用し遠隔監視を実施する場合)