消防予第133号
消防危第85号
平成9年8月19日
各都道府県消防主管部長 殿
消防庁予防課長
消防庁危険物規制課長
全域放出方式の二酸化炭素消火設備の安全対策ガイドラインについて(通知)
二酸化炭素の放出に伴い死傷者を生じる事例が散見されることにかんがみ、消防庁では、二酸化炭素消火設備の安全対策について、平成8年3月に学識経験者等から構成される「二酸化炭素消火設備安全対策検討委員会」(以下「検討委員会」という。)を設置して検討を行い、同年9月に検討委員会における検討結果がとりまとめられた。これについては、「二酸化炭素消火設備の安全対策について」(平成8年9月20日付け消防予第193号・消防危第117号)により通知しているところである。
また、二酸化炭素消火設備の安全対策のうち、防護区画に隣接する部分の安全対策については、消防法施行規則の一部を改正する省令(平成9年自治省令第19号)により、基準化を図ったところである。
今般、検討委員会における検討結果等を踏まえ、全域放出方式の二酸化炭素消火設備に係るなお一層の安全対策の充実を図るため、「全域放出方式の二酸化炭素消火設備の安全対策ガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)を別添のとおりとりまとめたので通知する。
貴職におかれては、下記事項に留意のうえ、その運用に遺憾のないよう配慮されるとともに、貴管下市町村に対してもこの旨示達され、よろしく御指導願いたい。
記
1 全域放出方式の二酸化炭素消火設備に係る設置計画について、消防機関に事前相談等がなされた場合にあっては、次の事項に留意すること。
(1) 二酸化炭素消火設備の性状等について、ガイドライン第2に基づいて関係者に情報を提供すること。
(2) 当該設置場所がガイドライン第3①から③までに掲げる場所に該当するものであるかどうか、十分確認すること。該当する場合にあっては、他の消火設備の設置について検討するよう指導すること。
(3) ガイドラインに掲げられている事項は、法令に規定されている二酸化炭素消火設備の安全対策を更に充実するためのものであることから、関係者の同意を得られるよう、設置場所の用途、利用状況等に応じて適切に対応されたいこと。
2 全域放出方式の二酸化炭素消火設備を設置している既存の防火対象物又は危険物施設(以下「防火対象物等」という。)にあっても、二酸化炭素消火設備に係る防火安全対策の充実を図るため、機会をとらえ、上記1に準じて対応されたいこと。
3 全域放出方式の二酸化炭素消火設備を任意で設置する防火対象物等にあっても、二酸化炭素消火設備に係る安全対策の充実を図るため、当該設置場所の状況に応じ、上記1に準じて対応されたいこと。また、既存のものについても、同様の取扱いとされたいこと。
全域放出方式の二酸化炭素消火設備の安全対策ガイドライン
第1 趣旨
二酸化炭素消火設備は、消火に伴う汚損が少ない、電気絶縁性がある等の特徴を有しており、通信機器室、電気室、ボイラー室、駐車場等の火災を有効に消火することのできる設備として、国内において多数設置されている。
しかしながら、全域放出方式の二酸化炭素消火設備については、消火に必要な量の二酸化炭素を防護区画に放出した場合において、高濃度の二酸化炭素の作用により、人体に影響を与え、場合によっては生命の危険性が生じるおそれがあるものである。二酸化炭素の放出に伴う人身事故を防止するためには、その危険性を認識し、二酸化炭素消火設備の設置場所、建築物の利用形態等に応じた安全対策を十分に講ずることが必要である。
このため、消防法令上、全域放出方式の二酸化炭素消火設備を設置する防護区画及び当該防護区画に隣接する部分には、これらの部分に存する人を二酸化炭素を放出する前に予め退避させるための音響警報装置、防護区画に消火剤が放出された旨を表示する放出表示灯、放出後再入室する場合に消火剤を排出するための措置等の安全対策が講じられているところである。
このガイドラインは、消防法施行令(以下「令」という。)第16条及び消防法施行規則(以下「規則」という。)第19条の規定に加え、全域放出方式の二酸化炭素消火設備の安全性を確保するために必要な細目についてとりまとめたものである。
また、全域放出方式の二酸化炭素消火設備について、所要の安全対策を確保するためには、既存のもの及び任意で設置するものも含め、このガイドラインの趣旨を反映した設計、設置・維持管理等を行うことが適当である。
第2 二酸化炭素の性状等について
二酸化炭素消火設備に消火剤として使用されている二酸化炭素の性状等は、次のとおりである。
1 二酸化炭素の主な性質及び影響
(1) 物理・化学的性質は、次のとおりである。
① 常温で気体、無色、無臭
② 化学式 CO2
③ 分子量 44.1
④ 融点 -56.6℃(5.11気圧)
⑤ 昇華点 -78.5℃(1気圧)
⑥ 比重 1.529(空気=1)
(2) 中毒量の評価値である最低中毒濃度は、2%とされている。
(3) 二酸化炭素を吸入した場合の症状は、次のとおりとされている。
① 気中濃度が3~6%では、数分から数十分の吸入で、過呼吸、頭痛、めまい、悪心、知覚の低下などが現れる。
② 気中濃度が10%以上では、数分以内に意識喪失し、放置すれば急速に呼吸停止を経て死に至る。
③ 気中濃度が30%以上では、ほとんど8~12呼吸で意識を喪失する。
2 消火剤としての消火作用
二酸化炭素は、熱容量の大きい気体で、一般の火災に対しては化学的に不活性(分解、化学反応等を起こさない。)である。したがって、二酸化炭素の消火作用には、
① 燃料と空気の混合によって形成される可燃性混合気中の燃料及び酸素濃度を低下させ、燃焼反応を不活発にし消火に導く作用と、
② 二酸化炭素の熱容量で炎から熱を奪い、炎の温度を低下させ燃焼反応を不活発にし消火させる作用の2つがあり、それらが複合し消火効果をあらわす。
また、保存容器中に液化され貯蔵されている二酸化炭素が、放出時気化する時の蒸発潜熱も火炎の冷却に寄与し、消火剤としてより効果的に作用する。
3 消火剤として防護区画に放出された場合の危険性
消火剤として防護区画に放出された場合の危険性は、次のとおりである。
(1) 消火に用いる濃度(概ね35%)では、ほとんど即時に意識喪失に至る。
(2) 高濃度(55%以上)の二酸化炭素が存在すると、酸素欠乏症とあいまって、短時間で生命が危険になる。
第3 二酸化炭素消火設備の設置場所について
次に掲げる場所には、原則として全域放出方式の二酸化炭素消火設備を設置しないこと。
なお、当該部分にやむを得ず全域放出方式の二酸化炭素消火設備を設置する場合には、このガイドラインによるほか、二酸化炭素の危険性を考慮した極めて高い安全対策を施す必要があること。
① 当該部分の用途、利用状況等から判断して、部外者、不特定の者等が出入りするおそれのある部分
② 当該部分の用途、利用状況等から判断して、関係者、部内者など定常的に人のいる可能性のある部分
③ 防災センター、中央管理室など、総合操作盤、中央監視盤等を設置し、常時人による監視、制御等を行う必要がある部分
第4 防護区画に係る安全対策について
二酸化炭素消火設備の防護区画は、令第16条第1号及び規則第19条第4項第4号の規定によるほか、次によること。
1 防護区画には、2方向避難ができるように2以上の出入口が設けられていること。
ただし、防護区画の各部分から避難口の位置が容易に確認でき、かつ、出入口までの歩行距離が30m以下である場合にあっては、この限りでない。
2 防護区画に設ける出入口の扉は、当該防護区画の内側から外側に開放される構造のものとするとともに、ガス放出による室内圧の上昇により容易に開放しない自動閉鎖装置付きのものとすること。
3 防護区画内には、避難経路を明示することができるよう誘導灯を設けること。ただし、非常照明が設置されているなど十分な照明が確保されている場合にあっては、誘導標識によることができる。
第5 防護区画に隣接する部分に係る安全対策について
防護区画に隣接する部分は、規則第19条第4項第19号の2の規定によるほか、次によること。
なお、規則第19条第4項第19号の2ただし書の「防護区画において放出された消火剤が開口部から防護区画に隣接する部分に流入するおそれがない場合又は保安上の危険性がない場合」としては、
① 隣接する部分が直接外気に開放されている場合若しくは外部の気流が流通する場合、
② 隣接する部分の体積が防護区画の体積の3倍以上である場合(防護区画及び当該防護区画に隣接する部分の規模・構造等から判断して、隣接する部分に存する人が高濃度の二酸化炭素を吸入するおそれのある場合を除く。)
その他
③ 漏えいした二酸化炭素が滞留し人命に危険を及ぼすおそれがない場合が該当するものであること。
1 防護区画に隣接する部分に設ける出入口の扉(当該防護区画に面するもの以外のものであって、通常の出入り又は退避経路として使用されるものに限る。)は、当該部分の内側から外側に容易に開放される構造のものとすること。
2 防護区画に隣接する部分には、防護区画から漏えいした二酸化炭素が滞留するおそれのある地下室、ピット等の窪地が設けられていないこと。
<参考> 防護区画に隣接する部分の模式図
第6 起動装置について
全域放出方式の二酸化炭素消火設備の起動装置は、規則第19条第4項第14号から第16号までの規定及び「ハロゲン化物消火設備・機器の使用抑制等について」(平成3年8月16日付け消防予第161号・消防危第88号 。以下「抑制通知」という。)第3(4を除く。)によるほか、次によること。
1 起動装置が設けられている場所は、起動装置及び表示を容易に識別することのできる明るさが確保されていること。
2 起動装置は、照明スイッチ、非常ベル等他の設備の操作とまぎらわしい操作方法を避け、消火のため意識して操作しなければ起動することができない機構とすること。
3 手動起動装置又はその直近の箇所に表示する保安上の注意事項には、次に掲げる内容を盛り込むこと。
・ 火災又は点検のとき以外は、当該手動起動装置に絶対に手を触れてはならない旨
・ 手動起動装置を設置した場所は、防護区画において放出された消火剤が流入するおそれがあるため、二酸化炭素消火設備を起動した後、速やかに安全な場所へ退避することが必要である旨(当該場所について、消火剤が流入するおそれがない場合又は保安上の危険性がない場合を除く。)
第7 消火剤を安全な場所に排出するための措置について
消火剤を安全な場所に排出するための措置は、規則第19条第4項第18号及び第19号の2イの規定によるほか、次によること。
1 自然排気又は機械排出装置により、屋外の安全な場所に排出できること。
2 機械排出装置は、原則として専用のものとすること。ただし、防護区画等から排出した消火剤が他室に漏えいしない構造のものにあっては、この限りでない。
なお、防護区画に係る機械排出装置と当該防護区画に隣接する部分に係る機械排出装置は、兼用することができること。
3 排気装置の操作部は、防護区画及び当該防護区画に隣接する部分を経由せずに到達できる場所に設けること。
第8 放出表示灯について
全域放出方式の二酸化炭素消火設備の放出表示灯等の保安措置は、規則第19条第4項第19号ハ及び第19号の2ロの規定によるほか、次によること。
1 消火剤が放出された旨を表示する表示灯は、次図の例により設置すること。
なお、防護区画に係る放出表示灯と防護区画に隣接する部分に係る放出表示灯は、同一の仕様のものを設置することができること。
二 酸 化 炭 素 充 満
危 険 ・ 立 入 禁 止 |
大きさ:縦8cm以上 横28cm以上
地 色:白
文字色:赤(消灯時は白)
2 放出表示灯は、防護区画又は防護区画に隣接する部分の出入口等のうち、通常の出入り又は退避経路として使用される出入口の見やすい箇所に設けること。
3 放出表示灯を設ける出入口の見やすい箇所に、保安上の注意事項を表示した注意銘板を次図の例により設置すること。
・ 防護区画の出入口に設置するもの
注 意 この室は
二酸化炭素消火設備が設置されています。
消火ガスが放出された場合は、入室しないでください。
室に入る場合は、消火ガスが滞留していないことを確認してください。
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大きさ:縦20cm以上、横30cm以上。 地色:淡いグレー。文字色:緑
・ 防護区画に隣接する部分の出入り口に設置するもの
注 意 この室は
隣室に設置された二酸化炭素消火設備の消火ガスが充満するおそれが
あります。
消火ガスが放出された場合は、入室しないでください。
室に入る場合は、消火ガスが滞留していないことを確認してください。
|
大きさ:縦20cm以上、横30cm以上。 地色:淡いグレー。 文字色:緑
4 放出表示灯の点灯のみでは、十分に注意喚起が行えないと認められる場合にあっては、放出表示灯の点滅、赤色の回転灯の付置等の措置を講じること。
第9 音響警報装置について
全域放出方式の二酸化炭素消火設備の音響警報装置は、規則第19条第4項第17号及び第19号の2ハの規定によるほか、次によること。
1 防護区画に係る警報と防護区画に隣接する部分に係る警報は、同一の内容とすることができること。
2 防護区画内の見やすい位置に、保安上の注意事項を表示した注意銘板を次図の例により設置すること。
注 意 ここには
二酸化炭素消火設備を設けています。
消火ガスを放出する前に退避指令の放送を行います。
放送の指示に従い室外へ退避してください。
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大きさ:縦27cm以上、横48cm以上。 地色:黄。 文字色:黒
3 音声による警報装置のみでは、効果が期待できないと認められる場合には、赤色の回転灯を付置すること。
第10二酸化炭素消火設備の管理について
消防用設備等は、消防法令に規定する技術上の基準に適合するように設置するとともに、設置後においても当該基準に適合するように維持管理しなければならないとされている。
さらに、全域放出方式の二酸化炭素消火設備については、その特性を踏まえて適正な管理を行うことが必要であることから、次に掲げる事項に留意すること。
1 常時十分な点検整備を行うこと。
なお、点検の実施にあたっては、点検時の安全を確保するため、抑制通知第3、4によること。
2 防護区画及び当該防護区画に隣接する部分の利用者、利用状況等について、入退室等を含め十分な管理を行うこと。
また、維持管理、点検等を行う場合にあっては、関係者以外の者が出入りできないように、出入口の管理の徹底を図ること。
3 防火管理者、利用者等に対して、二酸化炭素の人体に対する危険性、設備の適正な取扱い方法、作動の際の通報、避難方法等について、周知徹底すること。
4 二酸化炭素消火設備が作動し、二酸化炭素が放出された場合には、直ちに消防機関への通報、当該設備の設置・保守点検等に係る専門業者等への連絡を行うとともに、二酸化炭素が放出された防護区画及び当該防護区画に隣接する部分への立入りを禁止すること。
5 二酸化炭素が放出された防護区画及び当該防護区画に隣接する部分に立ち入る場合にあっては、消防機関、専門業者等の指示に従うとともに、次の事項に留意すること。
(1) 二酸化炭素の排出は、消火が完全にされていることを確認したうえ行うこと。
(2) 防護区画及び当該防護区画に隣接する部分に入室する場合には、二酸化炭素を十分に排出した後とすること。