消防危第86号
昭和60年7月12日
各都道府県消防主管部長 殿
消防庁危険物規制課長
移動タンク貯蔵所における危険物移送の安全確保について
標記については、日頃より御努力を願つているところであるが、さる5月6日に東京都目黒区柿の木坂環状7号線で発生した移動タンク貯蔵所の横転炎上事故は、移動タンク貯蔵所自身の火災のみならず、一般住居にも延焼し、さらに下水道に流出したガソリンに引火する等社会的に大きな問題となつた。
今回の事故の事故原因や火災原因については、現在関係機関において調査中ではあるが、今回の事故が投げかけた問題の重要性にかんがみ、事故発生後直ちに「タンクローリー事故に係る消防対策検討会」を庁内に設置し、移動タンク貯蔵所の構造上及び消防活動上の問題点の洗い出し等を行い、今般、別添のとおりまとめたところである。
今後、当該問題点を解明するために専門的な検討が必要とされる事項については、学識経験者等を含めた検討を行うことにしているが、今後このような事故の再発を防止するため、貴職におかれては、移動タンク貯蔵所により危険物を移送している事業所に対して、消防法第16条の2に規定する移送の基準等の基準の遵守の徹底はもちろんのこと、運転手による無理な運転の防止や十分な休養による安全運転の確保等保安に関する社内教育の充実を指導する等より一層の事故防止対策の指導をお願いする。
なお、管下市町村に対してもこの旨示達され、よろしく御指導願いたい。
別添
タンクローリー事故に係る消防対策の検討結果について
昭和60年7月11日
タンクローリー事故に係る消防対策検討会
はじめに
去る5月6日東京都目黒区柿の木坂環状7号線で発生したタンクローリー横転炎上事故は、タンクローリー自身の火災のみならず、一般住居にも延焼し、さらに下水道に流出したガソリンに引火する等新しい都市型災害として社会的に大きな問題となつた。
危険物移動タンク貯蔵所(以下「タンクローリー」という。)は、消防法及びこれに基づく政省令によつて、構造上及び取扱い上の安全基準が定められ、横転した場合においても火災等の事故が発生しないよう安全措置が講じられており、事実これまでにおいても、走行時においてタンク本体が炎上するというような事故は発生していなかつた。
このことから、一般にタンクローリーの安全性は極めて高いものと思われていたが、今回の横転炎上事故は、かりに車両運転操作等の問題があつたとしても、改めてタンクローリーの安全性について疑問を投げかけることとなつた。
今回の事故が通常起り得ない極めてまれな事故であるのか、構造上の安全基準に問題があつたのか等々の点については、事故原因や火災原因が明らかにならなければ結論を下し得ないことはいうまでもないことであるが、今回の事故が投げかけた問題の重要性にかんがみ、消防庁としては、事故発生後直ちに「タンクローリー事故に係る消防対策検討会」(別添1参照)を庁内に設置し、タンクローリーの構造上の問題点及び消防活動上の問題点の洗い出し等を行つた。
検討会は、2か月6回にわたつて開催された。この間、事故原因及び火災原因の調査は、警察当局及び東京消防庁において進められてきたが、それぞれの原因は未だ明らかにされていない。
本報告書は、このような制約された、かつ、困難な状況の下で進められた審議の結果をとりまとめたものである。
したがつて、今後、火災原因等が判明したならば、一部については不要となることも考えられる。
なお、検討会は、次のとおり開催された。
第1回 昭和60年5月11日
第2回 昭和60年5月18日
第3回 昭和60年6月5日
第4回 昭和60年6月12日
第5回 昭和60年6月25日
第6回 昭和60年7月11日
1 東京都目黒区柿の木坂タンクローリー火災の概要
本火災事故は、タンクローリーの横転時に生じたとみられる亀裂がタンクの前方鏡板直近の胴板部にあり、ここからガソリンが漏れ、何らかの火源(電気系統のスパーク又は横転時の路面との摩擦衝撃の2点が考えられているが、特定はできず、調査中である。)で引火し、さらに横転して壊れた間仕切により区画された7つの室のうち前から6番目の室の上部可燃性蒸気回収装置の結合部、計量口及び安全装置からガソリンが漏出したため、延焼拡大したものとみられているが、現在調査中である。
この火災の概要は、東京消防庁のまとめによると別添2のとおりである。
2 タンクローリーの実態
タンクローリーとよばれているものには、高圧ガス、液化石油ガス、毒劇物及び消防法上の危険物を移送するものと種々ある。
本報告書は、消防法上の危険物を移送するタンクローリーに限り検討したものであり、高圧ガス等消防法上の危険物以外のものを移送するタンクローリーは検討対象外としている。
消防法上の危険物を移送するタンクローリーは、消防法上移動タンク貯蔵所とよばれているものであり、これを車両の形式で大きく分類すると3種類ある。
これを図示すると、図1(省略)のようになる。
(1) 単一車形式の移動タンク貯蔵所の例
(2) 被牽引車形式の移動タンク貯蔵所の例
例1(省略)
例2(省略)
(3) 積載式の移動タンク貯蔵所の例
例1(省略)
例2(省略)
図1 移動タンク貯蔵所の車両の形式(省略)
(1)はいわゆるタンクローリーと称されているものであり、数は最も多く、(2)はセミトレーラと称されているものであり、(3)はタンクコンテナと称されているものである。
今回火災事故を起したタンクローリーは、このうち(2)の形式のものである。
全国における移動タンク貯蔵所は、昭和59年3月31日現在、設置許可数では61,019台であり、これらのうち、完成検査を受け、実際に走行していると考えられるものは60,721台である。
なお、タンクローリーの生産台数(積載式を除く。)は、(社)日本自動車車体工業会の調べによると次の表1(省略)及び表2(省略)のとおりである。
表1 消防法上の危険物を移送するタンクローリーの生産台数(省略)
表2 昭和50年度~59年度の生産台数(省略)
3 現行の消防法上の基準
(1) 位置、構造及び設備の基準
タンクローリーの位置、構造及び設備の主な基準は、次のとおりである。
ア 常置場所
(ア) 屋外の防火上安全な場所に常置すること。
(イ) 耐火構造又は不燃材料で造つた建築物の1階に常置すること。
イ タンクの構造
(ア) 3.2mm以上の鋼板で気密に作ること。
ただし、他の金属板で作る場合にあつては、同等以上の強度を有する板とすること。
(イ) 0.7重量㎏/cm2の水圧試験で漏れ、変形のないこと。
ウ 容量制限
(ア) 容量は20,000L以下で、4,000L以下ごとに間仕切を設けること。
(イ) 間仕切は、3.2mm以上の鋼板で作ること。
エ マンホール、安全装置及び防波板(別添3参照)
(ア) タンク室ごとにマンホール及び安全装置を設置すること。
(イ) タンク室ごとに防波板を設置すること。
(ウ) 防波板は、1.6mm以上の鋼板で作ること。
オ マンホール及び注入口
3.2mm以上の鋼板で作ること。
カ 附属装置の損傷防止装置
附属装置がその上部に突出しているタンクには、当該附属装置の損傷を防止するための装置を設けること。
キ さび止めタンクの外面にさび止め塗装をすること。
ク 底弁及び閉鎖装置
タンクの下部に排出口を設ける場合は、当該排出口に底弁を設け、かつ、底弁を閉鎖することができる手動及び自動閉鎖装置を設置すること。
手動閉鎖装置には、レバーを設置すること。
ケ 底弁の損傷防止底弁を設けるタンクには、衝撃による底弁の損傷を防止する措置を講ずること。
コ 配管・配管の先端部に弁を設置すること。
サ 接地導線ガソリン等静電気による災害が発生するおそれのある液体の危険物のタンクに設置すること。
シ 結合金具
(ア) 給油ホースには、タンクの注入口と結合できる結合金具を備えること。
(イ) 結合金具は、真ちゆう等火花を発し難い材料で作ること。
ス 消火設備
危険物の消火に適応する第5種の消火設備を設置すること。
(2) 貯蔵、取扱いの基準
タンクローリーの貯蔵、取扱いの主な基準は、次のとおりである。
ア 貯蔵
(ア) タンク、安全装置及びその他の附属配管は、さけめ、極端な変形、折損等による漏れがおこらないようにすること。
(イ) 底弁は、使用時以外は完全に閉鎖しておくこと。
イ 被牽引自動車形式の貯蔵
被牽引自動車と牽引自動車を結合しておくこと。
ウ 完成検査済証
タンクローリーには、完成検査済証を備え付けること。
エ 取扱い
(ア) タンクに液体の危険物を注入するときは、タンクの注入口に移動貯蔵タンクの給油ホースを緊結すること。
(イ) ガソリン等静電気による災害が発生するおそれのある液体の危険物を移動貯蔵タンクに入れ、又は移動貯蔵タンクから出すときは接地すること。
(ウ) 引火点が40℃未満の危険物をタンクに注入するときは、タンクローリーの原動機を停止させること。
(エ) ガソリン等静電気による災害が発生するおそれのある液体の危険物を移動貯蔵タンクに注入管によつて注入するときは、注入管の先端をタンクの底部に着けること。
(オ) ガソリンを貯蔵していた移動貯蔵タンクに灯油等を注入するとき等には、静電気等による災害を防止するための措置を講ずること。
(3) 移送の基準
タンクローリーの移送の主な基準は、次のとおりである。
ア 危険物取扱者の乗車
危険物取扱者免状を携帯して乗車すること。
イ 移送開始前の点検
底弁等の弁、マンホール及び注入口のふた、消火器等の点検を行うこと。
ウ 車両停止時の安全確保
休憩、故障のため一時停止させるときは、安全な場所を選ぶこと。
エ 災害発生時の措置
危険物が著しく漏れる等災害が発生するおそれのある場合には、災害防止のための応急措置を講ずるとともに、消防機関等に通報すること。
4 過去の事故の状況
(1) 火災の状況
昭和49年から昭和58年までの過去10年間におけるタンクローリーの火災発生件数は64件である。
そのうち、走行中の件数は12件であり、走行中でも横転事故等の交通事故時における件数は、5件にすぎない。
この5件の火災は、いずれも横転等の交通事故時に車両が走行するための燃料を入れている燃料タンクの燃料(ガソリン、軽油)が燃焼したもの等であり、タンク本体に貯蔵した危険物に引火したものはなかつた。
(2) 漏洩の状況
昭和49年から昭和58年までの過去10年間におけるタンクローリーの漏洩の事故発生件数は223件である。
そのうち、走行中の件数は136件であり、走行中でも横転事故等の交通事故時における漏洩は116件である。
横転事故等の交通事故による漏洩の状況をみると、ほとんどが安全弁、マンホール部(注入口等)、底弁ハンドル(底弁操作バルブ)、配管、燃料タンク等からの漏洩で、その量は少量であつた。
なお、タンクローリーの事故件数は、表3(省略)のとおりである。
表3 タンクローリーの事故件数(省略)
5 今回の事故における検討すべき点
(1) 構造上検討すべき点検討会において洗い出されたタンクローリーの構造上の問題点及び検討項目は、次のとおりである。(省略)
表(省略)
(2) 消防活動上の検討すべき点
今回のタンクローリー事故においては、火災の発生場所が首都の大動脈である環状7号線で、かつ、交差点付近であるという交通のふくそうしている地点で、加えて住居の密集地域であつたにもかかわらず、消防隊の積極かつ有効な消火活動と資機材の迅速な集結により、被害を最小限にくい止めることができた。
今回のタンクローリー事故は極めて稀な事故であつたとしても、タンクローリーが、常時、全国各地を走行しているという事実を考える時、今回の事故を参考として、全国の消防機関が適切な消防活動を遂行し得るよう、一般論として、消防活動上の問題点等について検討を行つた。
その結果は次のとおりである。(省略)
表(省略)
おわりに
以上のように、タンクローリーの構造上及びタンクローリー火災の消防活動上の問題点並びに当該問題点を解明するために必要な検討項目の洗い出しを行つたが、これらの検討項目については、今後学識経験者、専門技術者等による委員会を設置し、研究を行うとともに必要な実験を行い、その結果によつては、次のような対応を講ずる必要があると思われる。
(1) タンク材料、板厚、形状等の構造規制の強化
(2) 融点の低い材料の使用禁止の措置
(3) タンクローリー火災の有効な消火方法の確立
(4) 消防活動用資機材の整備及び相互応援体制の確立
(5) 業界による消火器、防災資機材及び油回収資機材の拠点配備
(6) 残油等の処理体制の確立
なお、この際、タンクローリー関係業界においては、事故防止の徹底を期するため、より一層の自主的な保安対策を講ずることが望まれる。
別添1~別添3(省略)